週末の夜、煌びやかな繁華街にて。「1週間頑張ったんだから。」という免罪符のもと欲望を解放していた。普段はあまりお酒は飲まないのだが、今夜だけはとアルコールに身を投じる。たった2杯のハイボール、それでもお酒が弱い私が妖艶なネオン街に溶け込むには十分だった。日付が変わる数分前、街は完全に夜の顔になる。胸元をちらつかせるお姉さんとそれに惹き込まれるサラリーマン。これぞ週末、夜の風物詩。ホストと化粧の分厚い女性、これもまた然り。
夜職の人ってのはとても煌びやかな格好をしている。それは街の煌びやかさに負けじとそうしているのか、むしろその人たちがその街を輝かせているのか。どちらにせよ、あれほど輝かしいと大金を使ってでも近づきたいと思うのは当然だろう。煌びやかなブランドで身を覆い、お客さんにチヤホヤされながら大金を稼ぐ。「夜職って夢があるよな。」
もちろん、そんな甘い世界ではないのは重々承知しております。
しかし、誰もが一度は思ったことがあると思う。二十代という若さでいて、一晩で何十、何百万稼げる上に学歴も関係なく資格もいらない。必要なのは若さ、そして容姿端麗であること。もし、そんな世界で成功すれば、お金や異性に困ることはなさそうだ。タワーマンションに住みながら、身につけるものは高価なブランド品、一食5,000円は当たり前。まさに夢だ。
しかし、現実離れした夢はいつかは覚めてしまうもの。夜職ってのもはいつまでもやっていけるものでもなさそうだ。人間時が経てば老けていく。若さを最大の武器とする夜職の寿命は短い。昼職との違いはそこにある。スキルやキャリアが重視される昼職では、働く期間が長くなるほど個人の需要は上がるため給料は増えていく。しかし、夜職の場合はその逆だ。若さを活かせる間がピークになる。
これは大きなリスクだ。もし、若さを失い昼の世界へ転職しなければいけなくなった時、夜の世界でのキャリアが通用しなくなる。同然、昼の世界で働いてきたものは、その頃にはある程度成熟してしまっている。自分が輝いていた世界を失ったこと、そして今までと違う世界で遅れたスタートを切ること。先の不安に打ちひしがれてしまいそうだ。さらにもし生活水準を破格にまで上げてしまっていたら。
人間の欲というのもキリがなくて、どれだけ高価なものに身を染めようとそれが続くと当たり前になりさらに高価なモノを求めてしまう。そして、通過してきた当たり前から今まで通りの幸せを感じることができなくなる。5,000円の食事が当たり前になれば、1,000円の食事にも感謝しなくなるんだ。
過去の夢から覚めきれぬまま、受け入れられない現実を生きていく。
以上より、私は夜の世界への参入を諦める意向となりました。てか、そもそもお酒なんてハイボール2杯で限界だし、人見知りだから初対面の人と話せないじゃん。
なかなか いい源氏名が思い浮かばず頭をかかえるところだったが、そんな心配もいらないようだ。夜の街の徘徊によって生まれた小腹を満たすべく近くの牛丼屋さんへ立ち入る。そして、500円の牛丼にしっかりと手を合わせて「いただきます」をした後、米粒一つ残さず平げ帰路に着くのであった。